てんかん

てんかん|板橋区の脳神経外科・内科 - のむら脳神経外科

当院のてんかん診療について

てんかんとは

てんかんは「繰り返してんかん発作を生じる脳の慢性的な疾患」です。有病率は約1%(100人に一人)であり稀な疾患ではありません。多くの場合、てんかん発作が生じた際に対応する診療科は脳神経外科か神経内科です。現に、私がこれまで受け持った入院患者様の疾患で脳卒中、頭部外傷に次ぐ3番目に多い疾患がてんかんでした。
実はてんかんの診断及び治療は容易ではありません。てんかんの診断及び治療は「てんかんセンター」と呼ばれるてんかんの専門施設とスムーズに連携し行うことが重要です。以上を踏まえ、当院のてんかん診療の役割は

と考えています。

1)てんかんを疑う患者様の診療(てんかんの窓口)

てんかんの発作には全般発作と部分発作があります。以下が特徴です。

  • 全般発作:急に意識を失い手足をガクガクさせる
  • 部分発作:急に怖い・懐かしい感情が込み上げる(感情発作)、不思議な光や音を急に感じる、一点凝視(動作停止)、口をモグモグさせる(自動症)

てんかんと聞くと上記の全般発作を想像されると思いますが、実は部分発作を生じた後に全般発作に至る(二次性全般化発作と言います)ケースがほとんどです。そしてこの部分発作の症状こそが正確な診断の鍵となります。
つまり上記の部分発作の特徴を踏まえた問診が非常に重要です。しかし、部分発作は発作時間が短く、ご家族も発作の際には慌てており見逃していることが少なくありません。そこで、「次回、発作に気がついたら落ち着いてスマホで動画を撮影してください」とご家族へお伝えしています。例えば、一点凝視や、自動症などは非常に特徴的ですので「側頭葉てんかん」と診断に一気に近づきます。まさに。百聞は一見にしかずです。
「もしかして、てんかんかな?」と思いましたら慌てずにスマホでその様子を動画撮影し当院へご相談ください。

2)てんかんを伴う疾患の精査(MRI検査を行います)

初回のてんかん診療にはMRI検査は不可欠です。てんかんのガイドラインでも「てんかん診療では少なくとも一回はMRI検査をすべき」とあります。てんかん発作やけいれんの原因となる脳の病気を見逃してはいけないからです。以下にMRI検査でチェックすべき疾患を挙げます。

てんかん発作やけいれんの原因となる疾患

  • 脳出血
  • 脳梗塞
  • くも膜下出血
  • 脳腫瘍
  • 海馬硬化症
  • 皮質形成異常

上記疾患が見つかり、すぐに治療開始が必要な場合(急性期と言います)はこれらの疾患の治療を最優先します。
一方、これらの疾患が見つかったとしてもてんかんの原因とは限りません。また、頭部MRI検査で異常所見を認めないてんかんも少なくありません。これこそが、てんかんの診断及び治療が容易ではない理由です。当院で急性期の頭蓋内病変がないことを確認した後は、「てんかんセンター」で一度は診断及び治療を行うことが望ましいです。

3)てんかんセンターへの紹介

てんかん治療の目標は「発作出現なし」です。しかし、てんかんの患者様やご家族様の中には「発作なしは無理」と諦めている方が少なくありません。きちんとお薬を服用し睡眠も十分に確保しているにもかかわらず1年に1回でも発作が生じているようであれば、難治性てんかんと考えるべきで「てんかんセンター」の受診が望ましい状態と考えます。
当院では難治性てんかんの患者様の「発作出現ゼロ」を目指して適切にてんかんセンターにご紹介いたします。

4)てんかんのフォローアップ(てんかん治療のかかりつけとなります)

地域の「脳のかかりつけ」として、以下を目標にてんかんの診療を行います。

①発作出現なし

発作の有無、内服が無理なくきちんと行えていることを確認します。また、睡眠不足、飲酒などは発作のリスクになることを指導します。また、定期的に血液検査、頭部MRI検査を行い必要に応じて内服薬の減量や変更などを行います。

②副作用出現なし

てんかんのお薬には「眠気、ふらつき、皮疹」以外にも特徴的な副作用があります。以下に一部の例を提示します。

  • カルバマゼピン:心不全、低ナトリウム血症、運動失調、聴覚異常、骨粗鬆症
  • バルプロ酸:体重増加、脱毛、パーキンソン症候群
  • ラモトリジン:興奮
  • レベチラセタム:行動異常、不機嫌
  • べランパネル:易刺激性

当院では毎回の診察時に発作の出現がないことはもちろん、内服薬特有の副作用がないことを確認し患者様のライフスタイルに合わせて適切な内服調整を行って行きます。

③事故なし

発作が生じた際に大怪我や大事故につながらないようにアドバイスします。仕事環境に関しては必要に応じて職場の産業医との連携も行います。レジャーに関しては水難事故の防止や車の運転の可否などアドバイスします。

④生活の不安なし

特に問題が生じるのは「運転免許」と「妊娠・授乳」に関してです。
運転免許に関してですが、道路交通法で運転適性が認められる要件は「2年間のてんかん発作が生じていない」です。これは無発作期間が2年以上であれば健常人と比較し事故の発症リスクの差がほとんどないことに起因します。ただし、睡眠不足、内服薬の飲み忘れ、発熱時、前日の飲酒などは発作のリスクが生じますので運転しないことを指導します。
妊娠・授乳に関しては以下の内服薬の調整が必要です。

  • 単剤投与へ切り替える:単剤投与で奇形発現リスクを低くすることができます。
  • レベチラセタム、ラモトリギンへ切り替える:奇形発現が低い薬に切り替えます。
  • 葉酸(0.4mg~0.6mg/日)の内服:奇形発現、児のIQ低下の軽減

逆に奇形発現が比較的高いのはバルプロ酸、カルバマゼピンです。葉酸と拮抗するためです。特にこの2剤の併用は催奇形リスクが高いので禁忌です。

⑤福祉制度の申請

てんかんの方が申請できる制度があります。経済的助けは患者様の負担を減らし、継続的なてんかん治療を助けます。以下がてんかんで申請できる制度です。積極的に活用しましょう。

自立支援医療制度

「てんかん」と診断されたの患者様が対象です。原則1割の定率負担となります(※所得や状態により異なります)。申請を市区町村の窓口で行うことが必要です(申請しない限り活用できません)。当院では、当院かかりつけのてんかんの患者様の「自立支援医療診断書」を作成し申請の支援を行います。どうぞお気軽にご相談ください。

精神障害者保健福祉手帳

初診日から6ヶ月以上経過した「てんかん」と診断された患者様が対象です。福祉サービスの利用や各種減免制度が適用となります(発作の種類や頻度などにより等級が決定します)。申請を市区町村の窓口(障害福祉課など)で行うことが必要です(申請しない限り活用できません)。当院では、当院かかりつけのてんかんの患者様の診断書を作成し申請の支援を行います。どうぞお気軽にご相談ください。

障害年金制度

てんかん患者様の中には「障害年金」の対象となる方がいらっしゃいます。1級~3級まであり、等級に応じて年金が支給されます(例:1級は年金額975100円、2級は年金額780100円です)。申請を市区町村の行政機関、年金事務所、年金相談センターで行う必要があります(申請しない限り活用できません)。当院では「診断書(所定の書式あり)」を作成し申請の支援を行います。

まとめ

  • てんかんは100人に1人が発症するありふれた疾患である。
  • 発作時の動画(スマホ)が有効な手がかりとなる場合がある。
  • 初診の際は頭部MRI検査を行い危険な脳の疾患がないかチェックする。
  • 診断、治療は容易ではないことが多く「てんかんセンター」との連携が必要。
  • 福祉制度も活用し、身体的、経済的に負担の少ない持続可能なてんかん治療を行う。