「生理的健忘」か「認知症」か診断する
脳は手や足と同じように体の一部です。加齢とともに「早く走る」ことが苦手になることと同じように、脳も「覚える」ことが苦手になってきます。これを「生理的健忘(加齢に伴う正常な認知機能低下)」といいます。初診ではまず「生理的健忘」か「認知症」かチェックします。実は認知症外来に積極的にご自身で受診される患者様は「生理的健忘」であることがほとんどです。なぜなら既に「自分のことが認知できている」からです。
しかし、「生理的健忘」の段階であるからこそ認知症の予防が重要です。当院では「認知症ではないので大丈夫ですよ」で終わるのではなく、認知症の予防を行います。
治療可能な認知症を見逃さない
認知症と診断された場合、以下の治療可能な認知症を見逃さないことが重要です。
治療可能な認知症
- 水頭症
- 慢性硬膜下血腫
- ビタミンB1
- B12欠乏症
- 低血糖
- 甲状腺機能低下症
- 脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)
- 脳腫瘍
- けいれん発作
上記は一例ですが、これの疾患が原因で認知症を呈していた場合、適切な治療を行うことで認知機能の回復が望めます。一方で、これら疾患の発見が遅延することは患者様の不利益を意味します。
診断のためには
が必要となります。
ところで脳の画像検査には、CT検査とMRI検査がありますが大きな違いは以下の2点です。
- すぐに治療が必要な脳梗塞(急性期脳梗塞)の検出:MRI検査◎、CT検査×
- 脳血管の異常(脳動脈瘤、脳血管閉塞)の検出:MRI検査◎、CT検査×
つまり、認知症診断に必要な脳の画像検査は「MRI検査」です。また「見逃してはいけない認知症」を診断から治療まで一貫して行う診療科は「脳神経外科」です。認知症が気になり病院へ受診すると「まずは脳神経外科へ」と案内されるのはこのためです。
治療可能な認知症であった場合、すぐに治療を行う
脳卒中であった場合は緊急入院が必要です。当院で初期治療をした後、私が信頼する医療機関で最善・最良な治療がすぐに行えるように手配いたします。また、水頭症や慢性硬膜下血腫であった場合は手術により認知機能の改善が見込めます。私が信頼する手術のエキスパートをご紹介させていただきます。
根本的治療が困難な認知症も病型を診断し、快適な生活をサポートする
冒頭でアルツハイマー型認知症は根本的治療が困難と述べましたが、同様に根本的治療が困難な認知症の病型は下記のように多数あります。
根本的治療が困難な認知症
- アルツハイマー型認知症
- 前頭側頭型認知症
- レビー小体型認知症/パーキンソン病
- 進行性核上性質麻痺
- 大脳皮質基底核変性症
上記の疾患は確かに根本的治療が困難ですが、適切な治療や介護保険サービスを活用することで生活の質を維持することが可能です。ポイントは以下です。
- 「認知機能障害」の進行を遅らせる治療薬を病型に合わせ適切に選択する。
- 妄想、幻覚などの「認知症の行動・心理症状」をコントロールし生活の質を維持させる。
- 介護保険制度の申請(介護申請)を行い、「介護保険サービス」を活用する。
疾患毎に推奨される薬剤が異なりますので、きちんと病型を診断し適切な薬剤を処方することが重要です。また、お薬だけでなく運動療法を適切に行うことでより良い効果が望めますので運動療法をアドバイスします。
妄想、幻覚などは「認知症の行動・心理症状」と言われ、ご本人のみならず、ご家族の生活も妨げます。「認知症の行動・心理症状」のコントロールには内服薬の調整に加え、後に述べる「介護保険サービス」を利用し、「時間的・空間的距離をとる」ことが有用です。
介護保険サービスは満40歳以上が対象となる社会保険制度です。認定は7段階あり、患者様の状態に合わせて施設サービスや通所リハビリなどのサービスを受けることができます。当院では「主治医意見書」を作成し、介護申請の支援を行います。